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WILD BLOOD

第15話 美少女天使ブルセラムーン

−5−

(以下は劇中劇である)

 アバン・タイトル。
“美少女天使ブルセラムーン 第X話「華麗なる変身! ブルセラムーン降臨!」”

 神矢美月(薫)は九十九高校に通う普通の高校一年生。
 だが、その正体は――月より遣わされた愛と美の天使ブルセラムーンであった!

 今日、九十九高校では文化祭の開催当日を迎えていた。美月も珍しく朝早くから家を出て、学校へ登校する。その道すがら、前を歩いているクラスメイトの風花アイ(つかさ)の後ろ姿を見つけた。
「おはよう、アイちゃん!」
「あっ、美月ちゃん、おはよう。今日は早いのね」
「それはそうよ。なんたって、今日は待ちに待った文化祭! その初日なんだから!」
「張り切っているなぁ、美月ちゃんは。でも、きっと、たくさんの人たちが私たちの文化祭を見に来るのよね?」
「ええ。そのためにこっちも今日まで苦労して準備してきたんだし」
「タコ焼き屋さんかぁ。ねえ、繁盛すると思う?」
「大丈夫よ! 私、ちゃんと味見して、確かめてあるんだから!」
「いつの間に!? もお、美月ったら!」
 二人は談笑しているうちに、学校へ到着してしまった。
 そんな二人の予想通り、九十九高校の文化祭は盛況だった。校舎の周りには様々な露店が軒を連ねている。あちこちから、おいしそうな匂いが漂っていた。
「いらっしゃい、いらっしゃいっ! おいしいタイ焼きだよ! 頭から尻尾まで、アンコがぎっしりだよ!」
「さあ、一匹丸ごとを焼いた、絶品のイカ焼きはいかが! どうだい、この香ばしいタレの匂いは! 焼きたてのホヤホヤだよぉ!」
「寄ってらっしゃい、見てらっしゃい! ほっかほかのフカヒレまんが出来あがったよぉ! 我ら、二年B組が研究に研究を重ねた特製のフカヒレまんだぁ! 女性には嬉しい、コラーゲンもたっぷりだよぉ!」
 どの店も競い合うようにして、自分たちの商品を大々的にピーアールしていた。
 それらを目の前にして、美月たちも黙っていられない。負けてなるものかと、お客の呼び込みを行った。
「タコ焼きはいかがですかぁ〜! 本場・大阪仕込みのタコ焼きですよ〜! アッツアツでおいしいですよぉ! どうぞ、おひとつ、いかがですかぁ!」
 それが功を奏してかどうか、美月たちの屋台の前には多くの人たちが集まって来た。次から次へと殺到する注文に、たちまち美月たちは大わらわになる。
 そこへアロハシャツにサングラスという、いかにもチンピラといったガラの悪い男(アキト)が通りかかった。繁盛している美月たちの屋台を見て、肩を怒らせながら近づいていく。
「おい、ネエちゃん!」
「は、はい。何でしょうか?」
 声をかけられたのはアイだった。振り向いた途端、チンピラの風体に顔をひきつらせる。そんなアイに対して、チンピラはわざと顔を近づけた。サングラスを少し上げて、充分に睨みを利かせる。
「今、そこで大阪仕込みのタコ焼きって聞こえたんだけど?」
「は、はあ……」
「確かに言ってたよなぁ?」
「え、ええ……」
 アイはチンピラに因縁をつけられ、タジタジとなった。他の客たちはトラブルに関わりたくないのか遠巻きにする。
「オレはな、タコ焼きに関しては、ちょいとばかしうるさいんだ。どれ、その触れ込みが本当かどうか、確かめさせてもらおうじゃないか!」
「ええっ!?」
「ひとつ試食させろ」
「そ、それは……」
「聞こえなかったのか? 試食をさせろって言ってんだよ!」
 チンピラは声を荒げると、勝手に並べて置いてあったタコ焼きのパックをひとつつかんだ。そこへ美月が飛び出してくる。
「ちょっと、お客さん! それは売り物です! 食べるんだったら、ちゃんとお金を払ってください!」
 美月は臆することなく、チンピラに注意した。しかし、それで、「はい、そうですか」と従う相手のはずがない。
「うるせえ! うまかったら金は払ってやるよ! だが、な! 大阪仕込みのタコ焼きという看板に偽りがあったときは――えっ!? 分かってるだろうな!?」
 チンピラはそう息巻くと、パックの中に入っていたタコ焼きをポイッと口の中に放り込んだ。その途端、目を白黒させる。
「あっ、熱っ! はふっ、はふっ!」
 まだ出来たてのタコ焼きは、丸ごと頬張ったチンピラの口の中を火傷させた。チンピラは手足をバタバタさせて苦しみながら、少しでも口の中を冷まそうと必死になる。
 すかさず、アイが紙コップに用意した水をチンピラに手渡した。チンピラは受け取るや否や、急いで水を流し込む。それでどうにか口の中を冷やすことができたようで、残りのタコ焼きを噛みもせずに飲み込んだ。
「かぁーっ、熱かった! あんまり熱いから、上顎の皮がめくれちまったじゃないか!」
 自業自得のくせに、チンピラはいちゃもんをつけた。アイは素直に、ごめんなさい、と頭を下げる。しかし、美月はチンピラの横柄な態度が気に入らなかった。
「それでどうだったの、味は!? おいしかったでしょ!? 分かったら、ちゃんとお金を払って!」
 美月は料金を要求するように、手の平を差し出した。それを一瞥したチンピラは、鼻で笑って、そっぽを向く。
「バカ野郎! こっちは火傷したんだぞ! こんなモン食わせやがって! 逆にこっちが慰謝料を請求してやるぜ!」
「ふざけたこと言わないで! 慌てて食べる、あんたがいけないんでしょ! それに、この娘が水を渡してあげたのに、お礼のひとつも言わないだなんて! 大人としても最低ね!」
「なんだと、コラァ!」
 美月とチンピラは睨み合うと、バチバチと火花を散らした。アイは交互に両者を見ながら、オロオロするばかり。
 すると、不意に美月の気が逸れた。「あっ」と短く声を漏らす。
 その場では美月だけが見ることができた。ネコくらいの大きさがある醜悪な怪物のようなものがどこからともなく飛来するや、チンピラの頭の上に漂ったのだ。
 そんな美月の様子を不審に思い、チンピラは何かあるのかと、振り向いたり、見上げてみたりしたが、何も見つけることは出来なかった。どうやら一杯食わされたようなと思い込むと、再び美月にガンを飛ばす。
 だが、すでに美月の注意はチンピラにではなく、彼女にしか見えない怪物に向けられていた。
 怪物はチンピラの肩にとまると、その首筋に爪を立てた。見えなくても痛みは感じたのか、チンピラはわずかに顔をしかめ、刺された首筋を手で押さえる。美月の目には、そこから怪物がチンピラの肉体へ潜り込むのが見えていた。
 それはブルセラムーンの宿敵、魔王ルシフェルが地上へ送り込んでいる下級の悪魔であった。ヤツらは心を失った人間を捜し出すと、“悪魔の爪”を埋め込み、悪の怪人《カース》に仕立て上げるのだ。
“悪魔の爪”を受けたチンピラは、いきなり苦しみ出した。悪魔の姿が見えていない他の者たちは、どうしたのかと不安そうに見守る。チンピラはとうとう倒れてしまった。
「だ、大丈夫ですか!?」
 心配になったアイがチンピラの背中に触ろうとした。
「ダメよ、アイちゃん! そいつに近づかないで!」
「えっ!?」
 美月の忠告は間に合わなかった。倒れ込んだチンピラは、“悪魔の爪”の影響でカニの姿をした《カース》――その名も《バブル・キャンサー》に変身。そいつは起きあがるや、アイをつかまえた。
「カーニカニカニカニーッ! よくもオレ様にタコ焼きを食わせてくれたな! 高級食材のカニはないのか!? カニカニカニーッ!」
「キャーッ!」
 アイは《バブル・キャンサー》の姿を見て、そのまま失神してしまった。他の者たちも突然の怪物の出現に、思い思いの悲鳴や奇声をあげて逃げて去って行ってしまう。気絶したアイを放り出した《バブル・キャンサー》は、「カニカニカニ」と妙なことを口走りながら、その巨大なハサミで手当たり次第に露店を壊し始めた。
 ただ一人、美月だけが逃げなかった。暴れ回る《バブル・キャンサー》に相対す。
「よくも私たちの文化祭を台無しにしてくれたわね!」
 美月は携帯電話を取り出した。いや、それは形こそ携帯電話に似てはいるが、そうではない。それこそ美少女天使が持つ変身アイテム《A-Mobile》だった。美月は《A-Mobile》を天にかざす。
 そして――
「ムーンライト・エンジェル・パワー、ドレス・アップ!」
 美月の身体が月の光に包まれると、愛と美の美少女天使ブルセラムーンへと変身した!

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