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「さあ、とっとと歩くんだ!」
必死に抵抗を続けているサリナに、ラカンは苛立ちのこもった怒声を浴びせた。だが、そんなことでひるむサリナではない。
「イヤよ! 離して!」
左手首をガッチリ握られたサリナは、そのラカンの手に爪を立た。さらに、連れて行かれないように足も踏ん張ってみたが、ラカンにグイッと強引に引っ張られ、その隙を与えてもらえなかった。
「まったく、強情な女だな!」
「ふん! アンタだって最低な男じゃない!」
「何を!?」
ラカンは完全に頭に血が昇っていた。サリナをつかむのとは逆の手で、その頬を力一杯張る。
「キャアッ!」
容赦ない一撃に、サリナは一瞬、意識を失いかけた。だが、またしてもラカンが腕を引っ張る痛みに、気を失わないで済む。ふらふらとラカンに引きずられた。
「オレが甘い顔をしていれば、いい気になりやがって! さあ! この中に入れ!」
ラカンは廊下の途中にあったドアを開けると、その中にサリナを押し込んだ。
勢い余ったサリナは、部屋の床にうつぶせに倒れ込んだ。その身体を柔らかな絨毯が吸収してくれる。だが、ラカンに殴られた頬は火傷をしたかのようにヒリヒリと痛んだ。おまけに鼻の下が濡れている。鼻血だ。深い緑色の絨毯に、したたり落ちた血が黒いシミを作り出した。
サリナは知らないが、ここはベネシストの潜入を手引きした応接室だった。サイドボードの人形たちが、冷たい目でサリナを見つめている。
「もう一度、お前に教えてやらなくちゃならないようだな」
頭上からラカンの声がし、サリナは振り仰いだ。
倒れ込んでいるサリナを見下ろすラカン。その眼には野獣のごとき凶暴さが宿っていた。
サリナはなんとか逃げようと、腹這いのまま動こうとした。だが、ラカンの手がサリナの後ろ髪をつかむ。
「あうっ!」
痛さに涙がにじんだ。それでもラカンは容赦しない。
「お前は誰の女だ? え? サリナ、お前は誰の女だ? 答えろ。ちゃんと答えれば許してやる」
「………」
「サリナ、オレはお前を愛している。分かっているだろ? それだけはウソじゃない。それなのに、どうして、お前はオレを嫌う? どうして、オレの愛を受け入れないんだ?」
責めるように言うラカン。そんな自分本位な男に、サリナは唾棄したくなった。
「ラカン……あなた、自分で何をしたか分かっているの? 私を手に入れるため、母さんに薬だと言って、毒を飲ませたでしょ!? 狂ってるわ、あなた! それに私を愛しているって言ったけど、そんなのは口先だけ! あなたが私に何をしてくれたと言うの!? あなたはただ、自分の欲望を満たしたかっただけ! 私を囲って自由を奪い、自分の所有物にしたかっただけよ! そんなの……そんなの愛じゃ──キャアッ!」
サリナの言葉を最後まで聞かず、ラカンはサリナの顔を殴った。首がもげそうな衝撃。その直後、ゴトッとサリナの頭が床に落ちる。だが、ラカンは再びサリナの髪をつかんで、強引に顔を上げさせた。サリナの顔を涙と鼻血が入り交じって汚した。
「分かっているじゃないか、サリナ! そうだ! お前はオレ様の所有物だよ! 今頃、気がついたのか? 所有物って言うのはな、主人に逆らったり、口答えしたりはしないものだ! 今のお前は、オレ様の所有物以下だな!」
そう言って、今度はサリナの顔を床に押しつけた。頭蓋骨が軋みそうなほどの力で、ラカンはサリナを痛めつける。気丈なサリナは、せめて悲鳴を上げないようにするのに精一杯だ。
すると、それがまたラカンの気に障ったのか、サリナが悲鳴を上げるまで、髪の毛をつかんで頭を持ち上げ、即座に床へ叩きつけるという残忍な行為を繰り返した。何度か強烈に鼻を打ちつけ、出血がひどくなる。もし、床に絨毯がなかったら、サリナはその時点で殺されていたかも知れない。
ようやく激情が収まったラカンは、ぐったりとしたサリナの身体を仰向けにさせた。そして、ドレスの胸元をつかみ、強引に破る。ラカンの目の前に白い乳房がさらされた。ラカンは力一杯、サリナの乳房を握りつぶし、卑しい笑みを浮かべる。
「お前が強情を張るというなら、オレはこの肉体に教えてやるまでだ。お前はオレの所有物だってことをな」
サリナには抵抗する気力もなかった。意識が朦朧としつつある。
ラカンはドレスのスカートをたくし上げ、下着をはぎ取り、サリナの脚の間に自分の体を割り込ませた。
「さあ、たっぷりと可愛がってやるよ」
ラカンは腰を突き入れようとした。
そのとき、部屋のドアが開け放たれた。
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