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空間移動はアッという間だった。ソロに運んでもらったゴルバには知覚できない。周囲の光景も、先程と変わりがないように見えた。唯一、巨大な扉を除いて。
「これは……?」
ゴルバは扉の巨大さに圧倒された。地下回廊を塞ぐほどのものだ。人間が何十人と束になっても開くことは出来ないだろう。
そこに先客がいた。
「来たか」
さほど驚いた様子もなく、シュナイトは言った。
逆に驚いたのはゴルバとソロだった。シュナイトの腕にはパメラが抱きかかえられている。
「パメラ!?」
ゴルバはかつての恋人の名を呼んだ。だが、気を失っているのか、パメラはぐったりとしたまま。
「何をした!?」
シュナイトに問いただしたのはソロである。その眼は殺気を帯び、背中の巨大な半月刀に手を掛けた。返答次第では兄でも斬るつもりだ。
「少し眠ってもらっただけだ。彼女が必要だったのでね」
シュナイトは邪悪さを隠しもせず言った。それはゴルバやソロが知るシュナイトではない。別人だった。
「貴様、弟ではないな?」
ゴルバも悪魔の斧<デビル・アックス>を構えた。本能が危険を報せる。
「ようやく気づいたか。バルバロッサの小僧ども」
「何だと!?」
「やっとここまで辿り着いたのだ。邪魔はしないでもらおうか」
シュナイトは静かにパメラを下に降ろした。その間も油断はない。
ゴルバは奥歯に力を込めた。相手が何者であるか悟ったのだ。
「貴様……あの魔導士だな?」
ソロもハッとした表情を見せた。笑みを浮かべるシュナイト。いや──
「導師ジャコウ。お前たちにその力を授けたのは、このオレだ」
シュナイトの肉体を乗っ取った魔導士──ジャコウは、その正体を明かした。
ゴルバとソロの眼が憎悪に燃えたぎる。
「力を授けただと!? ふざけるな! オレたちがこんな肉体にされて、どれほど苦しんだか知るまい!」
「だが、その力がなければ、お前たちはバルバロッサを打倒することも出来なかっただろう。むしろ感謝して欲しいものだな」
ジャコウはニヤリと笑った。
「貴様の目的は、この扉の先にあるものか?」
ゴルバは次第にジャコウの左側に回り込みながら尋ねた。ソロと二人で固まっていれば、魔法で一網打尽にされてしまう。それを避けるためだ。
「そうだ。《神々の遺産》。それこそ、オレが長年、探し求めてきたものだ!」
「大層なお宝らしいな。悪いが、こちらに引き渡してもらおうか」
ゴルバの要求に、ジャコウは鼻で笑っただけだった。
「《神々の遺産》が何であるか知りもせず、それを欲するとは、つくづく愚かな輩よ。いいか? 《神々の遺産》を手にすれば、このブリトンはおろか、ネフロン大陸全土を支配できる力を得るのだぞ。お前たちに扱いきれるものか」
「それはやってみなければ分からない」
ゴルバはソロに目配せした。ジャコウに攻撃を仕掛けるつもりだ。
だが、それよりも早く、ジャコウは懐から赤い宝石を取り出し、それをソロに向ける。すると赤い宝石は明滅を始めた。同じように、ソロの額も赤く光り、突如として苦しみ始める。ジャコウがソロの額に埋め込んだ赤い石と共鳴しているのだ。
「お前にはさらなる力を与えた見返りに、オレの役に立ってもらうぞ! さあ、兄上を殺すのだ!」
「ぐあああっ、うっ、ぐぅぅぅぅっ……」
ソロはジャコウの命令に逆らえなかった。頭を押さえ、ゆっくりとゴルバの方を向く。
「お前はいずれ、ゴルバをも殺すつもりだったはずだ。セルモアを自分のものにするため。そして、ここにいる女を手に入れるため」
「パメラを!? ソロが!?」
ゴルバはパメラとソロを交互に見やった。
ソロは激痛のせいで、それを肯定も否定も出来ない。
ゴルバはソロの動向が気になり、ジャコウに襲いかかることが出来なかった。二対一だったはずが、立場が逆転してしまう。
ソロの姿が消えた。空間移動だ。
ゴルバはどこに出現するかと、周囲を警戒した。
だが、ソロの出現地点は意外なところからだった。真上だ。頭上から巨大な半月刀の一撃が迫る。
「っ!?」
ゴルバはかろうじて身をかわしたが、反応が遅れて、左肩を背中にかけて斬りつけられた。激痛に顔をしかめる。
それでもゴルバは上半身をひねって、ソロに悪魔の斧<デビル・アックス>を叩きつけようとした。
ブゥゥゥン!
空振り。ソロは再び姿を消していた。
「ハッハッハッ! 面白い! 兄弟同士の殺し合いが見られるとはな!」
ジャコウは見物に興じていた。
その足下で、パメラは意識を取り戻しつつあった。うっすらと目が開かれる。
ゴルバは出現地点を見極められないソロに備え、周囲に《黒い毒霧》をまき散らした。ゴルバの身体が、毒霧に覆われる。
そこへソロが現れた。だが、途端にゴルバの《黒い毒霧》を吸い込んでしまい、動きが鈍る。そのソロへ悪魔の斧<デビル・アックス>の一撃が襲った。
バキィィィィィン!
かろうじて半月刀で攻撃を受けきったソロであったが、悪魔の斧<デビル・アックス>のパワーは凄まじく、その刀身を粉々に打ち砕いた。弾みでソロの小さな身体は、地下回廊の壁まで吹き飛ばされる。ソロは床に倒れ込むと、すぐに起きあがろうとしたが、毒の効果か、口から吐血した。