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その頃、同じくウィルに敗れたソロはその屈辱を忘れようと、酒を調達するために自分の寝室から厨房へと向かっていた。ソロもウィルの電撃呪文の直撃を受けたが、今は超人的な回復をしている。もっともカシオスよりはダメージが小さかったことも原因にあった。
それでも負けたことは屈辱だ。ソロはどす黒い憎悪の魂に新たな名前を刻んでいた。それはその名前の主を殺さない限り消えることはないだろう。
厨房で酒を手に入れ、城の中庭で飲んでいると、ふと見上げた城の尖塔に美しいシルエットを見つけた。窓から外を眺めている女性のようだ。ソロの方には気がついていない。だが、ソロはその女性の姿に見取れた。
ところが、中庭からその美貌を確かめるには遠すぎた。もっと近くで見てみたいという欲望に駆られ、ソロは尖塔へと向かった。
まだ、この城に戻って間もないソロは、内部に不案内で少し迷ってしまったが、なんとか尖塔に続く階段を見つけ、それを昇った。すると扉の前には兵士が一人立っており、ソロのいかにも怪しげな風貌を見て警戒心を強めた。
「何者だ?」
やや怯えのこもった口調で、兵士が問いただす。ソロは敵ではないと示すように、手を広げて見せた。
「オレはソロ。兄ゴルバの弟だ」
「あなたが?」
兵士はソロのことを知らなかったらしく、驚いた表情になる。似ても似つかない兄弟だということもあるだろう。
「それよりも、ここは何だ?」
ソロは酒臭い息を吹きかけながら兵士に尋ねた。
「ここにはパメラ様がおいでになります」
「パメラ?」
「デイビッド様の母上様です」
「貴様、デイビッドに様づけなどするな!」
ソロは歯をむき出しにして吠えた。その剣幕に兵士はすくみ上がる。あまり見張り番としては役に立たないかも知れない。
それを見て、ソロは一転して相好を崩した。
「まあ、いい。オレもデイビッドの母親に会ってみたい。開けてくれ」
だが、兵士は必死に首を横に振った。
「出来ません。ここはゴルバ様の命令がないと」
そうは言っても、兵士の怯えは手に取るように分かった。
「オレがその弟でもか?」
「は、はい……」
「ふ〜ん」
ソロは目を細めた。兵士は思わず手にしていた槍を強く握る。
「分かったよ」
ソロはそう言って、兵士に背を向けた。分かってくれたと安堵した兵士は、そこに隙を作った。いきなり振り返りざまにソロが跳んだ。それも低い天井すれすれに。
「!」
武器を構える間もなかった。ソロは落下スピードと全体重を右手に乗せて、兵士を殴り倒した。あまりの衝撃に脳震盪を起こして倒れる。
伸びてしまった兵士から鍵束を奪ったソロは、すぐに扉に合う鍵を見つけると監禁室を開けた。
中には一人の女性が居た。パメラだ。バルバロッサの妻であり、デイビッドの母親である。そして、過去にはゴルバと恋仲だった女。
パメラは最初、ソロの姿を見たとき、その表情を強張らせた。無理もない。ソロの容貌は人間離れしすぎている。だが、すぐに気丈さを取り戻したのはさすがだ。
「何者ですか?」
「オレはソロ」
「ソロ? ゴルバの弟の?」
「ほう。オレのことを少しは聞かされているようだな」
「そのあなたが何の用ですか?」
「用か? そうだな……」
ソロは下卑た笑いを顔に貼りつかせたまま、パメラへと近づいた。
パメラはもう寝ようと思っていたのだろう。薄い寝間着一枚を身につけているだけだ。そのあまりの薄さに身体のラインが透けて見えそうである。
「アンタ、デイビッドの母親なんだってな?」
「そ、それが何か?」
「いい気なものだよな。これまで温々と生きてきやがって!」
ソロの目に凶悪な光を認め、パメラは思わず後ずさった。が、狭い部屋だ。すぐに壁が背中につく。
ソロは獲物をいたぶるように、じっくりと、そして油断なく近づいた。
「オレは生まれてから一度も幸せなど味わったことがない。肉親すらオレを憎んでいたからな。だが、オレだって好きでこんな姿で生まれてきたわけじゃない。それでもオレを蔑むって言うのか?」
「可哀相な人……」
「ふっ、『可哀相な人』か。だったら慰めてもらおうか? アンタのその肉体でよ!」
そう言うや否や、ソロはパメラに飛びかかった。逃げる間もない。パメラはソロに押し倒され、床に組み敷かれた。
「ま、待って!」
「待てと言われて、待てるかよ!」