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[第九章/− −4 −−]



吟遊詩人ウィル・神々の遺産

第九章 地に潜みしもの(4)


 ソロは薄い寝間着を易々と破いてしまった。豊満な乳房が飛び出す。ソロはそれを鷲掴みにし、荒々しく揉んだ。それは愛撫などではなく、ただ欲望をぶつけるだけで、パメラは痛みに呻いた。
「親父にどんな口説かれ方をされたか知らないが、どうせアンタも苦労を知らないお嬢様だったんだろ? それがこんな化け物じみた男に犯されようとはな! 泣けよ! 叫べよ!」
「待って、私の話を聞いて!」
「何を今さら!」
「私の頼みを聞いてくれたら、いくらでも私を抱かせてあげるわ!」
「何だと?」
 ソロは動きを止めた。パメラが息を整えながら、真っ直ぐにソロを見返す。その美しさにソロはハッとした。
「私はデイビッドの母親。だから、あの子の無事が一番、気がかりなの。でも、ゴルバはデイビッドを殺そうとしているわ。そこでお願いよ。デイビッドを助けて。そして、ゴルバを殺して」
「兄者を!?」
 思いもかけないパメラの言葉に、ソロは目を見開いた。この女、本気か?
「ええ。ゴルバが生きている限り、デイビッドの命は狙われるわ。あなたからすれば身勝手な女だと思うかも知れないけど、やはり母親にとって子供は命より大事なのよ。願いを聞いてくれれば、私の全てをあなたに捧げます」
「………」
「本当よ。神に誓うわ」
 そう言うとパメラはソロの頬を優しく撫でた。
 これまで何百人と女を抱いてきたソロだったが、全て力ずくであったし、このように優しく接してもらったことなどなかった。不思議と心が安らいだ。こんなことは初めてだ。
 パメラはさらにソロの頭を抱き寄せるようにして、柔らかな乳房に押しつけた。ソロが思わず目をつむる。あまりの心地よさに、このままずっとこうしていたい気持ちに揺らいだ。
「兄者を殺せば……」
「ええ。ずっと一緒にいてあげるわ」
「何をしている?」
 突然、声がして、ソロは慌ててパメラから離れた。見れば、扉のところにゴルバが立っていた。
「あ、兄者!?」
 それは今まさにパメラが殺してと頼んだ相手だった。まさか今の話を聞かれたか。
 ゴルバは大股でソロに近づいた。そして、ソロの胸ぐらをつかんで、軽々と扉の方へ投げ飛ばす。ソロは受け身も取れず、扉横の壁に叩きつけられた。
「ソロ、ここへはたとえ弟のお前でも立入禁止だ! 見張りに注意を受けなかったのか!」
 ゴルバの怒号が狭い室内に響き渡った。ソロは思わず首をすくめた。
「ちょっと興味があったものだからよ……」
 ソロは弱々しく弁明した。先程の話を聞かれていたら、ゴルバに殺されるのではないかという恐怖に襲われる。
 今ここでゴルバを殺すわけにはいかなかった。愛用の半月刀は部屋に置いてきたままだし、室内ではソロの特殊能力も発揮できない。分が悪すぎた。
 そんなソロに再び近づき、ゴルバは睨みを利かせた。
「ソロよ。オレは遊びでお前やカシオスを呼び戻したのではないぞ。いいか、オレたち兄弟でこの国を支配するために呼んだんだ。こんなところで女をいたぶっている暇があったら、少しは役に立つことをしろ!」
 ゴルバの気迫に押される形で、ソロはうなずいた。
「わ、分かったよ、兄者」
「本当か?」
「あ、ああ」
「じゃあ、早速、働いてもらおうか」
 ゴルバは凄味を増しながら、ソロに命じた。思わず喉が鳴るソロ。
「地下室にいるシュナイトを呼んでこい」
「しゅ、シュナイト……?」
 シュナイトはゴルバのすぐ下の弟であり、カシオスとソロの兄になる。確かゴルバの話によれば、二年前に帰ってきて以来、城の地下室に閉じこもったままらしい。地下室と言えば、その昔、ゴルバたち兄弟が謎の魔導士によって人体改造を受けた場所で、近寄り難いイメージが脳裏から離れなかった。
 少なからず驚いた表情を作ったソロに、ゴルバは続けた。
「お前たち二人がやられた、あの魔術師を倒すには、シュナイトの力も借りなければならないだろう」
「それでオレがシュナイト兄ィを呼んでくるのか?」
「そうだ。簡単だろう? 子供の使いのようなものだ」
 ゴルバは事も無げに言った。だが、あの地下室へ行かなくてはならないとは。ソロは兄をひどく恨んだが、今は拒否するわけにもいかなかった。
「返事はどうした、ソロ」
「わ、分かった……」
 ソロは苦々しげに言葉を絞り出した。
「よし、では早速頼むぞ」
 そこまでゴルバに言われては、ソロも動かないわけにはいかなかった。一度、チラッとパメラの顔を見てから、シュナイトのいる地下室へと向かった。
 室内にはゴルバとパメラだけが残った。二人は無言のままだ。ゴルバが背中を見せると、パメラが露出した胸を隠しながら立ち上がった。
「ゴルバ……」
「ソロはオレの弟だが、女には見境がない。気をつけるのだな」
 ゴルバはパメラの方を見ようともせずに喋った。どうやらパメラがソロに殺しの依頼をしたことについては聞いていなかったらしい。もしゴルバが知れば、パメラもソロもただでは済まないだろう。
「また私から目を背けるのね……」
 パメラは淋しげな表情で言った。だが、それでもゴルバが振り向くことはない。
「どうして逃げるの?」
「……デイビッドなら、まだ無事だ」
「………」
「だが、いずれ捕らえる。必ずな」
「……意気地なし」
「………」
 ゴルバは何も言い返さなかった。昨夜の殺気など今は微塵もなかった。
 背を向けたままゴルバは監禁室を出て、後ろ手に扉を閉めた。その姿が見えなくなるまでパメラは見送っていたが、やがて力が抜けたようにベッドに腰掛けるのだった。


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