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「さあ、大人しくするんだ」
ストーンフッドの小屋では、アイナたちがピンチを迎えていた。
ウィルたちの留守を狙い、襲ってきたマインと双子のホビットは、デイビッドを追い込んだことで優位に立っていた。アイナはマインによって左腕をねじ上げられ、グラハム神父はチックの吹き矢によって昏睡している。デイビッドとキャロルは、チックとタックに挟み込まれ、逃げ場を失っていた。徐々にチックとタックが迫っていく。
「くっ!」
アイナは何とかマインの腕から逃れようとするが、女の細腕で屈強な男の力に勝てるわけがなかった。マインは勝ち誇ったようにアイナの腕を吊り上げるようにし、顔を近づけてくる。アイナは足をバタバタさせながら、顔を背けようとした。
「気の強い女だな。こういう女を屈服させるのがたまらないぜ」
「離せ、このぉ!」
「あまり抵抗するなって。デイビッドがどうなってもいいのか?」
「卑怯者!」
「卑怯者、結構! オレは手に入れたいモノは何が何でも手に入れる主義なんでな! ──おい、チック、タック、とっとと捕まえないか!」
山賊団の中では一番の新参者であるマインがチックとタックに命令していた。元来、気の弱いところのあるホビットは、そう言われても逆らえなかった。
「タック、逃がすなよ」
「チック、お前こそな」
二人は用心深く、デイビッドとキャロルに近づいた。
それに対し、デイビッドは歯をむき出しにして唸っていた。相手が危害を加えようとしているのが分かるのだ。隣でキャロルが、それを鎮めようと懸命だった。
「ダメよ、デイビッド様。殺されちゃうわ!」
だが、さすがのキャロルの言葉もデイビッドの耳には入らなかったようだ。
突然、デイビッドはキャロルの手を振りほどき、目の前のタックに飛びかかった。予想もしていなかったデイビッドの動きにタックがひるむ。
「あっ!」
「わああああっ!」
吠えるように飛びかかってきたデイビッドの身体と、タックはまともにぶつかる形になった。背丈は子供並であるホビットに、この体当たりは強烈だった。二人は折り重なるようにして倒れた。
「タック!」
チックはタックを助けようと、吹き矢を口にしようとした。こうなったらデイビッドを眠らせるしかない。
「ワン!」
だが、今度はそのチックに仔犬が勇猛にも飛びかかった。とっさに身をひねるも、手に持っていた吹き矢を叩き落とされてしまう。もっと驚くべき事に、仔犬は利口にも落ちた吹き矢を部屋の片隅に弾いて、チックに拾わせなかった。
「何をしているんだ!」
マインは子供一人も捕まえられない双子に苛立った。
「いででででで!」
デイビッドに飛びかかられたタックは、思わぬ攻撃に悲鳴を上げた。その決して高くない鼻をデイビッドにかじられたのだ。しかし、両者の力の強さはほとんど互角で、乗りかかっているデイビッドの身体を押しのけることができない。
一方、チックは吹き矢を拾おうとするが、それを仔犬にことごとく邪魔された。そのうち仔犬は吹き矢を口にくわえると、部屋中を逃げ回った。さすがに俊敏なホビット族も仔犬の動きに翻弄されてしまう。
その隙にキャロルは武器になりそうなものを見つけ、加勢した。ストーンフッドが剣を鍛えるときに使う小さなトンカチだが、凶器としては充分だ。仔犬を追いかけるチックに対して振り回す。
すっかり仔犬を追いかけることに夢中になっていたチックは、危うくキャロルの一撃を顔面に受けるところだった。素早く身を屈めて、頭上でやり過ごす。だが、お陰でバランスを崩し、床にすっ転んでしまった。