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[第十三章/− −4 −−]



吟遊詩人ウィル・神々の遺産

第十三章 再会は憎しみに燃えて(4)


「ふーっ!」
 坑道から出てきたキーツは埃にまみれた顔や身体を井戸で洗い、さっぱりとした。うがいまでしていると、そこにデイビッドの手を引いたキャロルが走ってきた。その後ろからはやはり子供が二人、追いかけてくる。当然ながら遊んでいるのだと思った。
「おじさん、助けて!」
 ハアハアと息を切らせ、キャロルはキーツの身体の後ろに隠れた。デイビッドはさらにその後ろに隠れさせる。
「何だ、追いかけっこか?」
 キーツは呑気に構えながら言った。そんなキーツの横腹をキャロルはギュ〜ッとつねる。
「違うわよ! デイビッド様の命を狙っている連中!」
「あれが?」
 キーツにはどう見ても子供にしか見えなかった。だが、向こうはキーツに気づいたらしく、慌てた様子で立ち止まる。
「?」
 よく目を凝らしてみると、一人の方は鼻から出血しているようだ。そして、こちらをチラチラ見ながら逡巡している。
「何をしている!?」
 そこへまた別の人物が現れた。今度は大男だ。それも背中に大きな剣を背負っている。大男はデイビッドたちを追ってきた子供たちに何やら怒鳴っていた。
「あれ? あいつは……」
 キーツは何となくその人物に見覚えがあった。
 向こうもキーツに気づいた様子だった。そして、ゆっくりと近づいてくる。男の左瞼は切れており、出血していた。
「よお、久しぶりだな、キーツ」
 相手はニヤニヤとした顔を見せていたが、キーツにはそれが作り物であると感じられた。
「マイン……」
 キーツの顔はマインに対して逆に強張った。
 二人は会話できるまでの距離に近づいた。キャロルはなおもキーツの後ろに隠れるようにして、デイビッドが飛び出していかないように強く押さえた。
「どうやら生き延びていたようだな」
 マインは再会を祝して、握手しようと右手を差し出した。しかし、キーツはそれを無視する。
 マインは肩をすくめたが、後ろに隠れている子供たちを見てニヤリとする。
「まあ、いい。それより、その後ろにいるガキを引き渡してもらおうか」
「断る!」
 キーツはきっぱりと言い放った。マインは思わず苦笑する。
「お前、知っているのか? そのガキがどんなガキか」
「ここの領主の息子だろ?」
「ほう。知っていたか。ならば話は早い。──どうだ? オレとまた組まないか? うまくすればこの街を──いや、この国を手に出来るぜ」
「………」
「傭兵稼業でセコく稼がなくてもいいんだ。いい話だと思うが」
「その前に聞きたいことがある」
 キーツの目は初めから古い知り合いと再会した喜びなど微塵もなく、殺意が感じられるほどジッと見つめていた。
「何だ?」
 マインは問い返したが、キーツが何を言おうとしているか分かっているようだった。
「お前、あの夜はどうしたんだ?」
 キーツは今にも爆発しそうな怒りを押さえ込むようにして尋ねた。
「あの夜?」
「とぼけるな! ガリの森でオレたちの部隊が急襲されたときだ!」
「ああ、あれね」
「お前があのとき、見張りに立っていたはずだ! なのに、オレたちは敵の接近に気づかなかった。なぜだ!?」
「お前だって、薄々は感づいているんだろ?」
「じゃあ、やっぱり!」
「ああ、オレがお前たちを売った!」


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