[←前頁] [RED文庫] [「神々の遺産」目次] [新・読書感想文] [次頁→]
「うひゃーっ、地下にこんなものがあるなんてな」
思わず声を立てたキーツに、アイナがシーッと注意した。その様子にデイビッドがくすくすと笑い出す。
「ホント、お二人は仲がいいですね」
そんなことを十歳の少年に言われ、アイナは顔を真っ赤にした。
「じょ、冗談じゃないわよ!」
大声で否定するアイナに今度はキャロルがシーッと注意する。
「アイナさん、声が大きすぎます」
アイナはまたまた赤面するはめになった。キーツが声を殺して大笑いする。
頭に来たアイナはキーツのすねを蹴飛ばしてやった。
一行──デイビッド、アイナ、キーツ、キャロル、レイフ、そしてウィルの六名は、ミスリル銀鉱山の奥から地下回廊に出て、領主の城へ侵入するつもりだった。今まさに地下回廊へ足を踏み入れたところである。
目的はデイビッドの母パメラの救出であり、父バルバロッサのカタキであるゴルバを捕らえることだ。ゴルバを捕らえてからの処分はデイビッドに任せてある。ただ心優しいデイビッドのこと、兄であるゴルバを処刑などの厳罰に処すかは疑問だ。
それでも皆、デイビッドを信じて同行を申し出た。この少年には自然とそうさせるような魅力があった。自らの魂を取り戻す前の彼からは感じられなかったことである。
「さて、鬼が出るか、蛇が出るか」
キーツとレイフはいつでも剣が抜けるよう準備していた。アイナもクロスボウの矢を装填してある。キャロルはデイビッドの隣を歩く。一行の先頭にはウィル。
地下回廊は不気味なまでに静まり返っていた。長年、忘れられたかのように埋もれていた空間のはずだが、ミスリル銀鉱山の坑道と通じたせいか、それとも何者かが人知れず使用し続けていたからなのか、空気は別段、よどんだ様子もない。一行は身を寄せるようにして、領主の城方面へ向かった。
しばらくは警戒しながら進んでいた一行だが、罠や敵が一向に襲ってこないので、徐々に緊張を解き始めた。それに地下回廊は一直線で、同じ景色ばかりが続き、次第に退屈してくる。一番に飽きたのは、やはりキーツだ。
「それにしてもデイビッド、お前さん、本当にこの地下回廊の存在を知らなかったのか?」
それは出発前にもした会話の繰り返しだった。だが、デイビッドは素直に応じる。
「ええ。父からもそんな話を聞いていません。第一、父が知っていたら、すぐに自分か人を使って調査するでしょう」
「だが、現に領主の城の地下から伸びているんだぜ。なあ、レイフ?」
うなずくレイフ。
「確かに、それで私は助かったようなものですから」
「レイフさんが入ったという地下室は、昔、城に身を寄せていた魔導士のものでしょう。僕も入ったことはなく、そういう話を聞いただけですが」
「そいつがデイビッドの兄さんたちを化け物のように改造したのね」
アイナも会話に加わってきた。
「ええ。でも、彼の本来の目的は、セルモアの地下に眠るという古代遺跡。天空人が暮らしていた都市は“大変動”を逃れて空に旅立ったそうですが、その痕跡が何かしら残されているのではないかというのが学者たちの仮説です。しかし、皆さんご存じの通り、これまで何も発見されませんでしたけど」
「それをオレたちは見つけてしまったわけだ」
「アンタが見つけたわけじゃないでしょ?」
自分の手柄のように言うキーツに、アイナがすかさずクギを刺す。
「しかし、この地下回廊と昔いた魔導士の部屋がつながっていると言うことは、彼が何かをつかんでいたということになりませんか?」
レイフが考え込みながら言う。
「そうですね。何かをつかみかけながら、父には黙っていた可能性はあります」
「黙っておきたい秘密か」
キーツも足りない頭を使って考える。
「秘密ってどんな?」
とは、アイナ。
「そりゃ、お前、お宝とかよ」
「俗悪ねえ」
「他に何があるってんだよ?」
「古代遺跡に眠っている魔法の品々は、今の我々にとっては宝物以上の価値がありますよ」
キーツとアイナに割って入るように、レイフが口を挟んだ。キーツが唇の端を吊り上げる。
「ほ〜れ、見ろ。やっぱり、お宝なんだよ」
「アンタは金銀財宝を頭に思い浮かべて言ってたんでしょ?」
「同じだろ」
「違うわよ」
「それはともかく、そんな秘密をつかんでいた魔導士が、いくらデイビッド殿の父上に追放されたとは言え、そう簡単に諦めるのもおかしな話ですね」
レイフが首をひねる。
「ひょっとしたら、とっくに調べ尽くして、何も発見できなかったのかも知れませんよ」
デイビッドは何もない地下回廊を眺めながら言った。
「あるいは、密かに舞い戻って調査を進めているのかも知れん」
不意にウィルが呟いて、一行はドキリとした。思わず周囲を見回す。
「ま、まっさか〜」
「そこまでして手に入れたい物がここに?」
「さあな。それは分からないが──」
ウィルはそこまで喋って、立ち止まった。他の者たちも足を止める。
「どうしたの?」
「見ろ」
ウィルは地下回廊の先を指さした。