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[第十一章/− −2 −−]



吟遊詩人ウィル・神々の遺産

第十一章 闇の結託(2)


 その頃、マカリスターを先頭に行軍を続けるノルノイ砦の騎士団は、セルモアの城壁まであとわずかという所まで迫っていた。まだ木々の枝が頭上を覆い、城壁の上部は見えてこないが、やがて開けた場所に出る。セルモアの兵士たちも手ぐすね引いて待っているに違いない。
「マカリスター卿、問題は城門をいかに早く突破するかです」
 マカリスターのすぐ後ろをついて行きながら、レイフが進言した。マカリスターはそんなレイフが疎ましい。
「分かっておるわ! ──全軍に通達! 城門を突破後は領主の城を目指せ! 他のものには目もくれるな!」
「オーッ!」
 勢いづく騎士団であったが、レイフは一人、冷静だった。城門をいかに突破するかが大問題であって、それに対しての方策は何もないのだ。このまま城壁まで押し寄せれば、城門を打ち破るまでの間、無防備な状態を敵にさらすことになる。相手はそれを待っているに違いない。
 このまま戦わずに後退できないのであれば、少しでも犠牲者を食い止めなくてはならなかった。レイフは後続の騎士たちを振り返った。
「いいか、頭上に注意するんだ! 敵は矢を射かけてくるはず! 盾<シールド>で頭を守れ!」
 目の前の報酬に我を失っている騎士たちも、まだレイフの言葉に耳を傾ける判断力はあった。皆、盾<シールド>を準備し始める。マカリスターまでも渋々、大盾<ラージ・シールド>を左腕に装備していた。
 間もなく細い道は終わり、城門前の開けた場所に出る。各自、抜刀して、先頭に備えた。
 ──と。
「!?」
 突如、先頭のマカリスターの馬が立ち止まった。細い道である。後続も止まらざるを得なかった。
「マカリスター卿!?」
 不審に思ったレイフが声をかけた。
 マカリスターの身体どころか、乗っている馬まで全身が硬直したようだった。見る見る冷や汗が浮かんでくる。明らかに何らかの異常がマカリスターに起きていた。
「どうしました?」
 心配になってレイフはマカリスターの身体に触れようとした。
 ピッ!
 そのレイフの手が突然切れた。さっと手を引く。まるでカミソリか何か鋭い刃物に触れたかのようだ。しかし、目には何も見えない。
 そのとき、他の騎士たちから驚きの声があがった。レイフも何事かと、騎士たちの視線が集まっている方向を見やる。思わずレイフも声をあげそうになった。
 そこには空中に浮いた人間がいた! それも全身に包帯を巻いた怪しげな男だ!
「何者だ!?」
 レイフは果敢にも剣を振りかざし、空中の男へ斬りかかろうとした。しかし、相手は剣先も届かないような空中だ。レイフの剣はむなしく空を切った。
「お初にお目にかかる。オレは領主バルバロッサの三男、カシオスだ」
「元領主だろう!」
 レイフは義憤を感じ、声を荒げた。実の父をむざむざ殺しておいて、よく臆面もなく言えるものだと思う。
 他の騎士たちも馬上で剣を構えた。
「待て。貴様たちの隊長がどうなってもいいのか?」
 マカリスターの動きを止めているもの。それは言うまでもなくカシオスの髪の毛であった。もちろん、レイフたちにそれは見えず、得体の知れない術としか思えない。
「オレが指一本動かすだけで、この隊長の首は落ちるぞ」
「くっ! 返す返すも卑怯な!」
 レイフは歯ぎしりした。ここでマカリスターを見捨てないところがこの男のらしさである。普段から疎んじられていても、それを理由にして恨むことはなかった。もし、これが逆の立場であれば、マカリスターは喜んでレイフを見捨てたことだろう。
「そう敵意を剥き出しにするな。オレは話し合いに来たのだ」
 カシオスの表情は包帯で隠れていたが、きっとこのとき冷笑を浮かべていたことだろう。
「話し合いだと?」
 レイフはまだ剣を構え、カシオスを睨んだままだ。マカリスターは動きも取れず、一言も発しなかった。
「そうだ。このまま戦えば、貴様たちは負ける」
「………」
 それにはレイフも異論がなかった。だが、他の騎士たちが色めき立つ。いくら愚連隊同然の彼らでも、戦いもせずに負けを認めるわけにはいかなかった。
「それよりはオレたちの側についてはどうかな?」
「父親を騙し討ちにするようなお前たちを信用しろと言うのか?」
「ほう。よく調べてあるな」
「すでに報告は王宮にも届いているはずだ。申し開きがあるなら、今のうちに聞いてやる」
「フッ、貴様らとて父バルバロッサがいなくなってくれればと思っていたくせによく言う。オレたちは感謝されてもいいくらいなんだぜ」
「父親殺し、並びに領主殺しの罪は重いぞ」
「青いな」


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