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カシオスは軽く左腕を振った。するとマカリスターと同じようにレイフの動きも封じられてしまった。
「くっ! 何をした!?」
レイフはひるまずにカシオスをねめつけた。だが、出来るのはそれくらいしかない。
「威勢がいいのは結構だが、度が過ぎると早死にすることになるぞ。──さて、ここからは騎士隊長殿と相談するとしようか」
そう言われて、マカリスターは青くなった。とにかく目の前の男は得体が知れない。空中に浮かんでいることもさることながら、どうして自分の身体が動かないのか分からなかった。もしかすると、このカシオスという男は魔術師なのかも知れないと考える。魔法ならばどんな不可思議な出来事も実現化できるだろう。
「まずは名前を窺おうか」
「マ、マカリスターだ……」
「では、マカリスター殿、我がセルモアに降る気はないか?」
「………」
「フッ、降るというのは適当ではないな。どうだ、仲間にならないか?」
「仲間だと?」
「そうだ。兄ゴルバはいずれ、ブリトン王国に対して反旗を翻すつもりだ」
「王国にだと!? なんと恐れ多いことを……」
「恐れ多い? 今の王国に何が出来るというのだ? ダラス二世陛下は病に倒れ、未だカルルマン王子に王位は譲られず、各地は支配力の低下で瓦解しようとしている! それをただ見ているだけの王宮に、貴公はまだ忠誠が誓えるというのか!?」
「ぬ……」
「これはいわば再建だ! ブリトン王国を我らと、そして貴公が再建するのだ!」
「私が……王国を再建……」
「そうだ! さすれば貴公は救国の英雄だぞ!」
「ダメです、マカリスター卿! ヤツの口車に乗っては!」
レイフは必死にマカリスターを思い留めようと叫んだ。マカリスターは人一倍、虚栄心を持っているだけに、今のカシオスの言葉にだいぶぐらついているはずである。それは避けねばならなかった。
カシオスはそんなレイフが邪魔であった。
「これはオレとマカリスター殿との話し合いだ! 貴様は黙っていろ!」
ヒュッ!
「ぐっ!?」
カシオスはレイフの首に巻きつけた髪の毛を操作し、これ以上喋れないようにした。レイフはもがこうとするが、全身もカシオスによって拘束されている。レイフの顔は苦しみに歪んだ。
他の騎士たちはなんとかしてやりたいとは思ったが、カシオスがどんな手を使ってマカリスターとレイフを封じているのか見当もつかなかった。それでは救うことは出来ない。それに異形の力を見せつけられては、カシオスに対して畏怖の念を感じずにいられなかった。
すぐ近くで苦しむレイフの姿を直視しているマカリスターも、カシオスに対して恐れを感じているのは同じであった。
「さあ、マカリスター殿。お答えはいかがかな?」
「………」
今ここで拒否すれば、レイフと同じ目に遭わされるかも知れない。思わずマカリスターはそう考えていた。
「君たちの仲間になれば、部下の安全を保証してくれるな?」
それだけをかろうじて言うのが精一杯だった。声は完全に震えてしまっている。
「もちろんだ。オレたちは同志になるのだからな」
「分かった。協力する」
マカリスターがそう言うと、唐突に動きが自由になった。カシオスが拘束を解いたのだ。
「では、このまま城まで来てもらおう。くれぐれもおかしなマネをするなよ。オレの術は、いつでも貴公ら全員にかけられるのだからな」
カシオスは含み笑いをした。
こうしてノルノイ砦の騎士団は、ゴルバたちセルモアの傘下に加わることになった。