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[第十一章/− −5 −−]



吟遊詩人ウィル・神々の遺産

第十一章 闇の結託(5)


「報告〜」
「報告〜」
 サリーレは馬を止めて、山賊団の連中はそのまま先を行かせた。だが、マインまで隊列から抜け出してくる。
「アンタまで来ることないでしょ」
「へっ、別にいいじゃねーか。それよりデイビッドとかいうガキの所在が分かったんだろ?」
 マインが言うように、チックとタックにはデイビッドの所在を突き止めるよう命じてあった。すでに教会がもぬけのからになっていることは知っている。
「で、どこに隠れていやがる?」
 マインはさっさとチックとタックに尋ねた。
「ミスリル銀の鉱山だよ」
「そこのドワーフにかくまわれている」
「神父も一緒」
「吟遊詩人も一緒」
「みんな一緒」
「みんないる」
「あと知らないヤツも」
「うん、男だ」
「見たことない男だ」
「ほう、鉱山のドワーフたちの所か」
 マインは顎をしゃくって考える素振りを見せた。
「何やっているんだい? カシオスに報告するよ」
「ちょっと待て」
 行こうとするサリーレをマインは止めた。
「何よ」
「その前にオレが確認してきてやる」
 マインは不敵に笑っていた。どうやらよからぬことを考えているようだ。
「確認? チックとタックが調べてきたんだ。今さら何を確認するって言うのよ?」
「だから、その前にオレたちがデイビッドってガキを連れ去ってくるのさ。どうだい、手柄としちゃ申し分ないだろ?」
 大胆不敵な考えに、サリーレは渋面を作った。
「そんな勝手なことをして! カシオスに知れたらタダじゃ済まないよ!」
「な〜に、さらってきちまえばこっちのもんさ。ヤツも文句は言えまい」
「向こうには、あのウィルっていうヤツがいるのを忘れたのかい? ヤツはカシオスだって敵わなかったんだよ!」
「そいつだって、四六時中、ガキに張りついているワケじゃないだろう? 必ず隙はあるはずだ。サリーレ、一緒に来いよ」
 サリーレはカシオスの誘いに首を横に振った。
「カシオスに報告もしないで、そんなこと出来ないよ」
「チッ! いい加減、あの男から俺に乗り換えろって! お前はもう疑われているんだぜ!」
「そ、そんな!」
 サリーレは先程のカシオスの態度を思い出し、言葉を失った。一度だけの過ちとは言え、カシオスを裏切ったのは事実だ。その事実がサリーレを苛ませる。
「ここは手柄を立てて、地位を確立しておいた方が利口だ。でなければ、カシオスはオレたちに見向きもしなくなるぞ。ヤツはもう、ただの山賊団の頭領じゃねえんだ。いや、元々オレたちなんぞとは違って、領主の息子という権力者の血を引いている野心家さ。このままじゃ、いつポイと捨てられるか分かったもんじゃない」
 サリーレの心は揺れた。一番、カシオスを理解していると思っていた自分が捨てられる? カシオスは初めて自分を認めてくれたのではなかったのか? もし簡単に捨てられてしまうのならば、それは自分の存在すらも否定されるかのように思えた。
(違う! 違う、違う!)
 サリーレは必死にその考えを振り払おうとした。
「カ、カシオスは私の全てよ!」
 声を絞り出すようにして、サリーレはようやく言った。そんなサリーレをカシオスは苦々しげに見つめた。
「じゃあ、勝手にしろ! ──チック、タック、その居所まで案内しろ!」
「え?」
「ボクらが?」
 チックとタックはサリーレとマインを交互に見やったが、サリーレは何も言わなかった。
「貴様ら、オレの言うことが聞けないのか!」
 苛立ったマインはチックとタックを恫喝した。双子は肩を縮み込ませる。
「わ、分かったよ」
「案内するよ」
 元来が臆病者であるホビットたちは、渋々、マインに従うことにした。
 一団から別れ、ミスリル銀鉱山へ向かうマインたちの後ろ姿を、サリーレは黙って見送った。


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