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[第六章/− −3 −−]



吟遊詩人ウィル・神々の遺産

第六章 死者のマリオネット(3)


 爆発の後の静寂には、パラパラという細かな破片が降り注ぐ音が混じった。その熱量を示すかのように、爆心地の真ん中は、真っ赤になってくすぶり続けている。もし、街中であったら、これほど威力のある魔法を使うことは出来なかっただろう。
 だが、戦いを終えても、ウィルはすぐにその場を去ろうとはしなかった。それはどうして死体が動いていたかを突き止めるためだ。
 動く死体と言うことで一般的に有名なのはゾンビである。黒魔術<ダーク・ロアー>によって作り出されるこのアンデッド・モンスターは、悪霊などを死体に憑依させることが基本で、黒魔術師<ウィザード>の命令に忠実に従う。死体は人間に限らない。動物でも構わないし、幻獣や魔獣などの死体でも構わないのだ。過去にはドラゴンの死体を使役した魔術師もいて、ドラゴン・ゾンビとして猛威を振るったとの記録もある。
 また、稀に自然発生的に生まれるゾンビもおり、そういったゾンビは独自の意思を持っているため、グールやワイトといったように区別されるのが学者間では通例だ。
 いずれにしろ、それらアンデッドには“負のオーラ”というものが付与されている。動植物が本来持つ“正のオーラ”に対しての言葉だ。これは四大精霊を扱える白魔術師<メイジ>には見ることが出来て、それによりアンデッド退治には必要不可欠な人員であると言っても過言ではない。ウィルも白魔術<サモン・エレメンタル>が使える以上、アンデッド特有の“負のオーラ”を見ることが出来た。
 しかし、教会の近くで始めて対峙したときから、ウィルは襲撃者たちから“負のオーラ”を感じ取ることが出来なかった。かと言って、全ての動植物が持つ“正のオーラ”もない。まるで無機物のようだった。動く無機物と言えば、後はゴーレムのような魔法によって何らかの動く力を身につけたものしか考えられない。だが、それを死体で作るとなると……。
 それがウィルに不審を抱かせていた原因だった。だからこそ、教会から離れてまで動く死体の謎を確かめようとしたのである。
 ウィルはバラバラに散乱した死体の一つに近づこうとした。
 すると──
「!」
 それはウィルでなければ気づかなかったであろう。何かが地面を蠢いている。
 ウィルの眼だけが、それが何であるか捉えた。
 もし、ウィルと同等の眼を持っている者がそれを見たとしたら、きっとこう認識したに違いない。バラバラになった死体をつなぐように、何やら細い糸のようなものが引っ張られ、地面を引きずりながら一カ所に身体の部位を集めていると。
 奇妙な光景だった。胸部と下腹部が合体すると、腕が、脚が、そして頭がそれに続く。集められる死体は元の形を取り戻し、復活したのだ。それも二体共に。
 この怪奇現象を、ウィルはただ黙って見つめていた。恐怖に声が出ないのではない。むしろ興味を覚えたという風に。
 いかなる魔法でもこのような再生は行われないであろう。だが、現実だった。ほどなくして、バラバラだったはずの死体は地面の上に立ち上がった。
 死者は何度でも甦る。
 吟遊詩人ウィルよ。
 これらの敵にどう相対するか?


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